『沈黙の山嶺』おもしろ小話集 第11回 麗しのジョージ・マロリー (2)

*『沈黙の山嶺』おもしろ小話集は、『沈黙の山嶺』が最初に刊行された2015年に白水社のウェブサイトで連載されていたものです。復刊を記念し、ここに再掲します。

 

 

ブルームズベリー・グループの面々と親しかったジョージ・マロリー。E・M・フォースターの小説『眺めのいい部屋』に出てくる重要人物のジョージ・エマソンは、実はマロリーがモデルでした。

 

マロリーはまた、ケンブリッジでジェフリー・ケインズと仲良くなります。ジェフリーは経済学者ジョン・メイナード・ケインズの弟です。1909年、ジェイムズ・ストレイチーに冷たくされて傷心のマロリーは、滞在先の南仏からメイナードに手紙を書いて10ポンド貸してくれないかと頼み、メイナードはそのとおり送っています。

 

大学を出てチャーターハウス校の教師になってからも、マロリーは友人の画家ダンカン・グラントに頼まれてヌードのモデルを務めたりします。あるときダンカンはマロリーにこう書きました。

 

「君に対する僕の感情はあまりに複雑で、なぜかキスすれば伝わると思った。複雑というのは、言葉で説明するのが難しいということ……第一に君は美しいと思う」(『沈黙の山嶺』注釈付き参考文献)

 

ちなみに、ピンク色の傘でサイの突撃から逃れたエディ・マーシュ(連載第8回を参照)と会ったのもこのころでした。

 

このようにいろいろな人の心を揺さぶったマロリーも、数年後には自分がたいそうな恋文を書く側に回ります。チャーターハウス校の近くで上演された野外劇に出たのがきっかけで、共演者のひとりだったルース・ターナーと恋に落ちたのです。のちに結婚することになるルースに宛てた手紙の一部を紹介して、今回は終わりにしましょう。

 

「[この手紙では、筆記体の輪になっているところが]全部キスで、上や下に突き出ているところは全部、君を抱きしめる腕。手紙を見直して、もっと長くしようか?」(第五章)

 

 

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